第1回
食生活の立場から熱中症・脱水症予防について
水分の摂取と排泄
熱中症予防には水分の摂取を忘れないようにと言われているが、日常当り前で大切な事は、朝食、昼食、夕食をちゃんと食べる事である。成人の場合1日の水分出納を見ると、摂取量は食事から1200ml、飲用水として1000ml、代謝水が300mlで合計2500mlである。排泄量は尿として1500ml、不感蒸泄900ml(呼気400ml、皮膚500ml)、糞便100mlで合計2500mlであり釣り合っている。もし1食抜いたとすれば単純に水分は400~500ml摂取不足になるばかりでなく、ミネラルほか栄養成分も取れない計算になり、食事は大切で重要である。
体内での水の移動
食事や飲料として摂取した水分は消化管から吸収され、血液(血漿)へ取り込まれ、体内でさまざまな代謝に使用されている。
体内の水分は「細胞内液」と組織間液や血漿などの「細胞外液」である。これらには、主にナトリウム、カリウム、クロール、リン酸などのミネラルがイオン(電解質)として溶けている。その種類と量は細胞内液と組織間液、血漿では異なるが、浸透圧を保つのに重要な働きをしており、水分と共に必要な栄養成分が移動することで、細胞の機能が正常に保たれている。例えば血漿中の含まれているたんぱく質量(約7%)と組織間液中のたんぱく質量(約0.05%)は重要で(膠質浸透圧という)、血液中の水分は、動脈側では血圧により組織に渡されるが、組織間の水分は膠質浸透圧により静脈血中に回収され、余分な水分は尿と肺から排泄されている。
水分の消失(脱水)
体内の水分を10%失うと健康に障害がおこり、20%失うと死に至る。特に高齢者は筋肉量の減少により成人に比べ細胞内液総量が減少しているので水分不足が現れやすい。また加齢により腎臓では尿の濃縮機能が低下しており、老廃物の排泄に沢山の水分が使われるので体液が失われやすい。
脱水状態
脱水状態を予防するのに水分補給が必要であるが、どの部位の水分と電解質のバランスが崩れているかにより、高張性脱水(水欠乏性)、等張性脱水(混合性)、低張性脱水(食塩欠乏性)がありそれぞれ対応が異なる。例えば塩分の多いものを食べて後のどが渇く場合には、水、麦茶、お茶などを飲んで血液中の電解質濃度のバランスを調え、余分な塩分を水分と共に尿として排泄している。症状によって水だけでは電解質異常をきたす場合があるので注意が必要である。
熱中症
体内の水分や塩分(電解質)のバランスが崩れ、体温調節が出来なくなった状態で、めまい、頭痛、けいれん、などが現れる。一般的に体温が上がると汗が出て、その水分が蒸発(気化熱)する事で体温が下がるが、汗が出ない場合体温は上昇してしまう。熱中症はその調節機構が働かなくなる状態で起る。普段から良い汗をかくトレーニングが必要である。
高齢者は暑さを自覚し難く、若い人に比べ気温が2度くらい高くならないと暑さを感じないといわれる。またのどの渇きも感じ難いため定期的な水分補給が必要になる。
熱中症の予防対策
食事は3食忘れずに食べることが脱水予防に役立つ
主食、主菜、副菜、汁(お茶など水分を意味する)を組み合わせた食事は栄養バランスが良く、1食で400~500mlの水分が摂取できる。主菜はたんぱく質の給源であり、副菜は野菜・きのこ海藻などの料理である。そして食前食後のお茶(水分)は消化や便秘予防に役立つ。水分は一気に多量を飲むのではなく、定期的に補給する。例えば1~2時間ごとにカップ1杯150~200ml位が適量である。汗が出ることが予想される時はあらかじめ水分補給をしておく。
アルコール飲料、紅茶、コーヒーなどは利尿作用があるので脱水時には適さない。
脱水時の経口補水液の作り方(自分で作れるもの)
脱水傾向の場合は、水だけでなく、血清成分に近い飲料を飲むのが良い。
スポーツ飲料1リットルに塩2g(小さじ1/3)を加える。
糖分入り飲料(りんごジュースなど)1リットルに塩3g(小さじ1/2)を加える。
水1リットルに砂糖40g(大さじ4杯と1/2)と塩3gを加える。
味噌汁や梅干し(中1個)でも電解質の補給になる。
脱水症を疑ったら、医療機関に罹ろう。
担当理事 飯塚美和子(管理栄養士)